働くひとを知りたい

「空の安全を守る、ヘリコプター整備のスペシャリスト」

株式会社ジャムコ 我妻 茜さん

「女性だから、こうあるべき」

そんな考えが時代遅れになった今、手に職を付け、そのスキルを磨き、自分の“好き”を突き詰めて働く女性たちが数多くいます。
今回ご紹介する我妻 茜さんもその一人。
一等航空整備士の資格を持ち、ヘリコプターの整備士としてひたむきに目の前の機体と向き合っています。

山形県出身の我妻 茜さん。友達とご飯を食べに行き、楽しい会話をすることが日々のリフレッシュ方法だという

修理だけじゃない。日々の勉強も仕事のひとつ

我妻さんの主な仕事は、ヘリコプターの整備。
整備工場へ運ばれてきた機体から操縦席の椅子などのパーツを取り除いて分解。
内部を隅々まで点検してヒビが入った部品を交換したり、オイル漏れを直したり…。また、サビを落とす、剥がれたテープを貼り直すなど、さまざまな不具合を修理していきます。
しかしこの仕事は“修理の技術を身につければ終わり”というものではありません。
日々新しくなる機体の構造や性能、そして修理技術もその都度しっかりと把握していかなければならないのです。
「今、整備をしているのは新しい型のヘリコプター。私はこのタイプの前身型の機体に長く関わっていたので、新しい機体を修理する時にその違いを知らなければ仕事ができなくなってしまいます」と語る我妻さん。
自分自身のスキルをバージョンアップさせていくことも大事な仕事のひとつと言えるかもしれません。

すべて英語で書かれた機体のマニュアルはパソコンで確認。整備士には語学の知識も必要となる

大学を中退。そして、整備士の道へ

今年で入社から11年。
今では素晴らしい整備のスキルを持つ我妻さんですが、実は入社するまでの道のりは少々遠回りでした。

「私は一度理系の大学に入学したのですが、途中で“この道で生きていくのはつらいな”と気付いたんです。じゃあ、私は一体何がやりたいんだろうと考えていた時に、当時ガソリンスタンドのアルバイトで一緒に働いていた子たちから“車の整備の仕事がおもしろい”ということを聞いたんです。ただ、車には興味がなかったんですよね(笑)。でも、昔から“なんであんなアルミの塊が空を飛ぶんだろう”って思っていたこともあって、整備するなら車よりも飛行機かなと思いました」

そして、3年生の時に大学を中退。
そこから航空専門学校への入学のために勉強を重ね、整備士の道を歩むことになりました。

仙台空港の滑走路に直結するジャムコの機体修理工場。取材したこの日は2機のヘリコプターが修理の完成を待っていた

1から10まで、すべての整備に関わりたい!

我妻さんにこんな質問を投げかけてみました。
—大学を卒業してから整備士を目指そうとは思わなかったのですか?

「それも少しは考えました。でも私は現場で働くことを希望していたので、体力的に若い時期のほうがいいと思ったんです。年が離れた方たちと一緒に働くことになるので、その当時は“なるべく早く!”と感じたんでしょうね(笑)」

早く現場で働きたい!
その想いを叶えるべく、我妻さんが目指したのは現在の勤務先であるジャムコでした。

「ジェット機のような大型機の整備を請け負う会社では、機体が大きいために担当できるのが脚の部分だけ、キャビンの部分だけという形式になるんです。でもこの会社は自分の目ですべてを把握できるような大きさの機体を扱うことができる。そこがいいなと思いました。飛行機だけでなく、ヘリコプターを扱えることも魅力でしたね」

ここで整備されるヘリコプターは、時に人助けのために出動することも。
実際、とある災害が起きた際には我妻さんが整備したヘリコプターが行方不明者の捜索で活躍したこともあるそうです。

「この仕事は救急の場を支えることもあるんだと思うと、絶対に不具合は出せません。何か問題を見落としたり、組み上げる時に間違えたりすると、そこからまた不具合が生じてしまう。だからこの仕事では一つひとつの作業をしっかりとやることが大事だなと感じています」

時々笑顔で会話を交わしながらも、スタッフとともに作業に取り掛かる。その作業一つひとつに空の安全が託されている

チームでの仕事は“信頼”がカギ

我妻さんが勤務している「回転翼課」には、現在9名のスタッフが所属。
その中で我妻さんの役割は、リーダーとしてのまとめ役。チームを率いる立場として大切にしていることを聞いてみました。

「お互いに信頼すること、ですね。相談するにしても、信頼しているからことできること。そうじゃないと、きっとチームとしては成り立たないと思います」

愛嬌のある笑顔が印象的ながらも、凛とした佇まいの我妻さん。
仕事に真面目。そして、人との向き合い方も実直。どこか一本筋が通ったような頼れる存在が中心にいるからこそ、チームはひとつになれるのかもしれません。

ミーティングの場で指揮をとる我妻さん。今は5人のチームを組み、ひとつの機体の修理を担当している

目指すのは、なんでもできる“一人前の整備士”

この先、仕事においての理想像を聞いてみました。

「例えば私の友達が超大金持ちになって、プライベートジェットを買うとしますよね? その時に“茜ちゃん、整備やってよ”なんて言われても、安全に飛行機を飛ばせるくらい一人前の整備士になりたいんです。この例えだと現実味がないかもしれませんが(笑)、“任せてもらえば安心だよ”と言い切れるくらい、一人でなんでもできる人になりたい。それが最終目標です」

そして、リーダーの立場から“こんなチームになりたい”という想いも教えてもらいました。

「上司から“あれをやれ、これをやれ”なんて一方的に言われたら、仕事っておもしろくないですよね? だからこそ、みんなが進んであれもこれもやってみたい、こうしたらいいんじゃないかと積極的になれる環境を作ってあげたいんです。そうじゃないといい機体は仕上がらないと思っています」

1機にかける整備の期間はおよそ2ヶ月。与えられた仕事をこなすだけでなく、スタッフ全員が使命感を持って仕事に取り組んでいる

体力の差は、知恵でカバー

実は、この会社に勤務する女性整備士の中で、初めて一等航空整備士の資格を取得したのが我妻さんなのだとか。
整備士の現場は、男性が多く働く場所。
性別に縛られることなく仕事に取り組めるとはいえ、男性と女性の体力の差はどうしても拭えません。
しかし、そんなネガティブな要素も我妻さんはこんなふうに切り替えます。

「女性は男性と比べて力が劣ることはもう仕方がない。年齢を重ねれば体力的にもつらくなるし、この仕事は男性の方が優位だと思っています。でも、体力がないなら知恵を使って、リーダーという立場になってスタッフに的確な指示を出せばいいんです。そんなところから自分の力を発揮できればいいのかなと思うようになりました」

「女性には大変な仕事なのでは?」
「何かあった時に代えが効くように、もっと大きな会社に就職したほうがいいんじゃないの?」

そんな言葉を投げかけられた経験もあるといいます。
しかし、そんな意見に左右されることなく自分自身を貫いてこれたのは、新入社員時代の上司の言葉があったからでした。

「女性だから苦労することもあると思う。でも、女性だからできることもあるんだよ」

それが、我妻さんに強さを与えます。

「きっと体力が基本になるこの仕事の中でも、女性の方が向いていることもあるはず。だからそれを一つひとつしっかりやっていけば評価にも繋がるし、生き残っていけるのかなと思っています」

スタッフのほとんどが男性。その中で我妻さんは、5年ほど前から「機付(きづき)長」というリーダーの役割を担っている

そのまっすぐな姿勢は、いつか誰かの道しるべに

「私は全然上に立つような人じゃないんですよ(笑)」と謙遜する我妻さん。
しかし性別や世代を問わず、その背中には “この人についていけば大丈夫”と思える厚い信頼感と整備の現場を引き上げていく強さに満ちているよう。
そして自分のやりたいことを仕事として極めている我妻さんの表情は自信に溢れ、晴れやかに映ります。
きっとその姿は誰かの手本と憧れになっているはず。
その姿勢はこれからも引き継がれながら、この先もずっと空の安全を力強く支えていくのだろうと感じました。

(2019/2 取材 ライター:及川恵子)

我妻 茜さん 株式会社ジャムコ

プロフィール
手に職を付け、そのスキルを磨き、自分の“好き”を突き詰めて働く女性たちが数多くいます。今回ご紹介する我妻 茜さんもその一人。一等航空整備士の資格を持ち、ヘリコプターの整備士としてひたむきに目の前の機体と向き合っています。

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