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タゼンを支える、「職人商人」の訓え

株式会社タゼン 引地 拓さん

伊達政宗の元で仙台城や神社仏閣の飾り金具をつくった御銅師(おんあかがねし)・田中善蔵をはじまりとする「タゼン」。
仙台のまちづくりや人々の生活を支える企業として歩むこと400年以上。
現在は「火と水」に関わる住宅関係の困りごとを手厚くサポートしています。

求められるニーズは時代によって変化しながらも、この会社の軸として紡がれているもの。それは「銅」を用いた作品を作り続けてきた歴史です。
そして金属を使った作品づくりに没頭した学生時代を経た引地 拓さんが、今、老舗に脈々と受け継がれてきた「銅」の歴史に、新しい風を吹かせようとしています。

2019年春に入社した引地さん。高校の頃から金属を使った造作の道を歩んでいる

高校生の時に決めた金属工芸作家への夢

引地さんが銅などの金属を使った作品づくりと出会ったのは高校生の時。
金工作家が生み出す作品を見て金属に対する印象が変わっただけでなく、その表現の振り幅の広さに驚いたといいます。

「金属のイメージって冷たかったり、少し怖かったりしませんか? それが、金属で、人や動物をモチーフとした金属彫刻を見たことで概念からひっくり返されて。金属ってこんな表現ができるんだ、ということに魅せられました」

その頃から作家を目指していたという引地さんは、東北芸術工科大学へ進学。神社仏閣などに錫(すず)工芸品を納める京都の企業でのインターン経験から、「地元の人々に根付き、そこでつくる商品によって地域に貢献できる企業での環境に触れたことで、地元で働きたい、宮城県内で就職しようと思うようになった」と振り返ります。そして、タゼンとは巡り合わせのような出会いを果たします。

仙台市青葉区一番町にあるタゼン本社。銅製品の制作・販売を行う銅工房がある

一番弟子を探して、アンテナを張り続けた10年間

副社長の田中 善さんはその当時、自身の右腕となる弟子を長年探していたといいます。

「これから銅を活性させていきたかったし、さらにリフォーム部門をリブランディングできるのではないかという将来のビジョンを考えるうえで、まずは一番弟子を見つけたい、と思ったんです。そんな時に出会ったのが引地君。こういうのを“巡り合わせ”というんでしょうね。もう10年くらいアンテナを張っていましたからね」

そして今、引地さんは総務部 商品管理課に所属。
入庫する商品や取り付けで持ち出される機器を管理する仕事を軸に、終業後は自身の作品制作に時間を当てるという1日を送っています。

「季節や社会の時事的な流れに応じて流動する商品を見たり、“こんな形のトイレがあるのか”と驚いたり…。新しいことに触れていくのが楽しいですね。僕はまだ入社して1年目。まだまだ働き方は確立できていませんが、全体的に周りを見るようにしながら“こうすれば働きやすいんじゃないか”という方法を探っている途中です。いつ、どんな仕事をお願いされてもいいように、耳と目を使ってしっかり構えておこう、と意識しています」(引地さん)

ちなみに、以前引地さんが制作した羊の姿を模した作品を見せて頂きました。
金属を叩いたり溶接でつないだりすることで抽象的なものから展開させた作品づくりにも取り組んでいるそうです。

「景色や植物、雲の様子を眺めるのが好きなので、そこからものづくりに発展させるように制作しています。なかなか言葉で説明するのは難しいですね(笑)」

たびたびLINEで銅について熱く語り合うという田中さんと引地さん。この日は、オーダーを受けた銅製の杯を木槌で打つ作業を見せてくれた

タゼンを支える、「職人商人」の訓え

タゼンの家訓のひとつに「職人商人たれ」、という言葉があります。
これは、“職人の仕事に没頭してはいけない。そして、商人の気持ちも忘れてはいけない”という意味。

「私たちの仕事は、きちんと人の話に耳を傾け、提案をして、ものづくりをして1セット。今はこの家訓を基本に人事制度を作りました」(田中さん)

新しく入社した社員は、3年間で「ものの部署・技の部署・営業」と、すべての部署での仕事を経験。
そうすることで営業販売だけでない経験を得られるばかりではなく、お客様からの反応や声に直接触れることで仕事への喜びにもつながるといいます。

「数字だけじゃモチベーションは上がらないでしょ? 反応がダイレクトに届くことで働く喜びになりますからね。そして、お客様からの信頼感も大きく変わってくるんです。今までは分業化、細分化の時代だったけど、これからはその良さも残しながら“職人商人”の精神を改めて根付かせていきたいです」(田中さん)

現在引地さんは、通常よりも1時間早く出社。
それは、ものが流通する工程をいち早く覚え、さらに職人が仕事をしやすいように場を整えていくためだそう。
それも、職人商人の精神を表すひとつです。

「物づくりをしているだけでは知ることができない市場へのアプローチの仕方も学べてプラスの要素しかないですよね。まだメリットもデメリットも実感はできていないところはありますが、きっと2年後くらいにこの制度の良さを感じるんだと思います」(引地さん)

「つくる、そしてニーズに応える。そのどちらもやってきたのがこの会社の原点。この方が、やっていておもしろいです」(田中さん)

作品は、人とコミュニケーションを図るための媒体

ものづくりの気質に溢れた引地さん。
休日も作品制作に没頭しているかと思いきや、
「平日と休日の自分をしっかり分けないと、と思っています」と語ります。

引地さんが考えるに、自身がつくる作品は人とのコミュニケーションを図るためのもの。
そのため休日にはまったく銅に触れない日も多く、部屋に置く棚をつくるなどして過ごしたり、外へ出かけたりすることが多いそうです。

「机が欲しいなと、思ったらホームセンターに行って材料を見ながら2時間くらいお店をぐるぐるしたりしますよ。こういう道具や素材があるんだとか思っても、結局トイレットペーパーしか買わないこともありますけどね(笑)」

既製品の家具はなるべく買わない。
服ひとつだって、安易には買わない。
道具は直して使い続けることが大事。

引地さんの口から出る言葉ひとつひとつからは、自身を貫く強い軸が見え隠れするようです。

スタジオ内にある道具の数々。つくる製品や用途に合わせ、職人それぞれが自作の道具を使っていたという

誰でも主体となれる環境づくりを目指す

引地さんに、これからのビジョンも聞いてきました。
「この会社でどんなところを目指していきたいですか?」

「今、副社長に教えてもらいながら一緒にせり鍋用の鍋を作っていますが、例えば僕を主体に何か事業を任された時に、僕じゃない人が中心になっても成り立つようにしたいんです。僕が急にいなくなったとして、ああこの事業はもうダメだね、なんてことになったらそれは会社の事業ではない。だから僕が理想とすることは、誰もが主体になって事業を進められる環境を整えていくことです」

さらに新たな人材を育成することや、会社の中に銅を使った制作ができる環境を再構築していくことにも挑んでいきたいと応える引地さん。
田中さんの右腕として仕事に当たるその一方で、引地さんの考えるタゼンの新しいビジョンがまた新たな道が紡いでいきそうです。

引地さんが田中さんとともに制作中のせり鍋用鍋。仙台市内の飲食店で使用される予定だという

生み出すことの楽しさを求めていく人と出会いたい

長年仙台の街と暮らしを支え、老舗だからこその信頼が寄せられているタゼン。
歴史を大切に守ることもあれば、変化していくことも求められてきたはず。
そんな中で
「これからのタゼンで変わらないこと、変わることはどんなことですか?」と田中さんに聞いてみました。

「人って、今の状況に満足していれば変わろうなんて思わないですよね。でもちょっと体の調子が悪いなあと思ったら運動をしたり、気分転換をしたりする。それと同じように、今、この会社も岐路にあるんです。今は震災後の慌ただしさが落ち着いてひと息ついているような状態なので、内側から変わるのにちょうどいい時期。だから、今必要なのは社内の内側からの新陳代謝でしょうね。
また、新しい価値観をもたらしてくれる人と出会うことで多様性や新しい風を生み出すターニングポイントだとも思っています。引地君もそのひとりだけど、“何かを生み出してやろう”と気持ちのうえでいかに現実にマッチした創作ができるか、ということを求められる人と出会いたいですね。
今までこの会社には安定を求めて入社してくる人が多かったんです。でも、その中で何かを生み出すことをおもしろいと思っている変わった人もいるんですよ(笑)。それが、今の時代にマッチして変化していくことなんじゃないかな、と思います。ただ、安全・安心、信頼、誠実、を考えた会社の基盤はこれからも変わりません」

「職人商人」の考え方に、すぐに共鳴したという引地さん。金属でつながる師弟関係は全国でもなかなか珍しい

(2019/11/29取材 ライター:及川 恵子)

引地 拓さん 株式会社タゼン

プロフィール
引地さんが銅などの金属を使った作品づくりと出会ったのは高校生の時。
金工作家が生み出す作品を見て金属に対する印象が変わっただけでなく、その表現の振り幅の広さに驚いたといいます。

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